日本の、緊張の、夏

社会人になってすぐの頃、とある地方の町に住んでいたことがあります。
そこは農村とまではいかずとも、凡百の田舎町であって、電車が1時間に2本しか走ってなかったりするようなところでありまして、都下の住宅都市で育った身にとってはなかなかに新鮮な心持ちで生活を始めたわけですが、なるほど新しい気づきに巡りあうことも多かったわけでして。

 

夏の日中などに電車に乗りますと、社内には夏休み中の中高生が多くおり、寧ろ大人は大抵クルマ移動ですので電車に乗っているのはほぼ中高生といった様相でした。みな一様にグループごとに固まって車内に散在する中高生のなかでもひときわギラギラついている中学生男子の二人組、片方は白いパンツに黒のタンクトップ、そのタンクトップにはD&Gの文字がついており不遜な態度、片一方もサングラスの蝶番部にやはりD&Gのエンブレムがついている、そんな二人組が我が物顔で座席についておりました。そのドル&ガバの二人は中学の中心人物でしょうか、後から乗ってくる中学生、年の頃でいえば中1くらい、ポケモンが好きそうな少年などが乗車するなりドルとガバに挨拶しにいったりなどし、ああこれが聞きしに及ぶ「地元の先輩イズム」かなどと関心しきりでございました。

 

そんな、セミがじーわじーわと鳴く夏休みも終わりに近づきますと、かの田舎町の駅、夕方などにもじもじとしている男女高校生などがいたりするものです。夏休みのうちに想いを伝えたいと焦りつつも、言葉を継ぐことができずに居心地の悪い空白の時間をごろごろ転がしながら。駅を離れれば、もうお別れなのでしょう、この時間を切り上げてしまえば帰宅しかないがために時間稼ぎをしつつ、いつ事を切り出そうかと半ばうわの空な表情の純朴な男子。社会人にもなりますと季節なんてものは気づけば過ぎ去っていくものですがこのような光景に出くわすと、ああ夏が終わるのだなあ、命短し恋せよ乙女だなあ、と鼻の奥につーんとしたものを覚えるのが大人の嗜みでございますな。